はじめての旅行

「いきたい所はないの?」
病室に一人で行ったときに、私を長年支えた人で兄の戦友でもあり、また兄の大学時代の友人でもあるその人に、そう聞かれました。
行きたいところといっても、そんなことを考えたこともない。
いつでもどこへでも行ける生活をしていたからと冗談まじりに答えました。
そうすると、でも本当は行きたいところくらいあるだろう。
と続けるので、本当にそんなことを考えたことはないと伝えました。
その他、兄についての色々な話を聞いた後、用意してくれた自分の部屋に帰る途中の道で、急に思い出したのです。
あった!!行きたいところがあった!!と思い、道で立ち止まりました。
「アメリカ本土」です。
いつか、そこの土地の上を歩いてやろうと思っていたのですが、そのようなことすら、もう忘れてしまっていました。
次の日にそのことを伝えると行ってきなさいとの話になって、また全てを用意してもらい、パスポートの手配などは、もう日本に存在しないかのような人間だったので、相当大変な手続きを面倒みてもらい、なんとかパスポートを手にいれ、アメリカに行くことになりました。
だれか案内を付けるとのことになっていたのですが、絶対に一人でいかせてくれと頼み、一人で行くことになりました。
電車やバス、もちろん飛行機など乗ったことがなかったので、成田空港までは送ってもらうことになりました。
なんとかアメリカについて、ニューヨークの街を歩き回りましたが、大丈夫だと思いました。もし何か失敗して帰れなくなっても、ここならまた生活できると感じました。
毎日、駅近くのコーヒーショップで外を眺め、行きかう人を眺めました。
これが、あの兄が戦った国かと思うと心にぽっかりと穴が開いたように感じました。
街を歩いて色々な店を見て回っていると、一つ私の注意を強く引くお店がありました。
看板の隅に、日本語でも「ミリタリーファッション」と小さく書かれていました。
そこには軍隊で実際に使われていた物や、実際に同じデザインとなっている軍隊関係のファッション商品が多数並んでいて、それを多くの人たちがカワイイ、カッコイイとのことで買い求めているようでした。
若い人が多く、私のような年寄りは誰もいませんでした。
この店に入り、商品を沢山の人が選んでいる光景を見て、私の心の中で緊張して固まったままだった心のしこりが、生温かい幸福な空気に包まれ、柔らかくなっていくような感じがしました。
兄が、心をまっすぐにして、戦いに出たあの日のことが、頭をよぎりました。
そして平和とはこういうことかと。これで良いのだと、そう感じました。
私は沢山のこずかいを渡されていたので、この店の気になるものをアメリカの若者たちに混じって買い求めました。
私にとっては「ミリタリーファッション」と呼ばれるものは、不思議な心地ちとなる効果があり、心の薬になるようで、その後私が着る多くの服はこのような軍隊ファッションになっています。
日本に帰ってからも、このような軍隊から出てきた商品やミリタリー関係のものを扱うお店に行っては、色々なものを買い求めるようになりました。
まっすぐで、どこか緊張して高潔で、高貴であったあの軍服が、いまでは「ミリタリーファッション」として若者たちの流行のものになっている。
このような劇的な変化を私は心の底から嬉しく思うし、楽しく思うし、そして心が安らぐ感じがするのです。
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